■ NEW LOST RAMBLERS |
■ 2003年11月20日(木) |
Last of the Brooklyn Cowboys / Arlo Guthrie (カイガン・リプリーズ KGCW-30) |
曲目 | |
01. Farrell O'Gara 02. Gypsy Davy 03. This Troubled Mind Of Mine 04. Week On The Rag 05. Miss The Mississippi And You 06. Lovesick Blues 07. Uncle Jeff 08. Gates Of Eden 09. Last Train 10. Cowboy Songs 11. Sailor's Bonnett 12. Cooper’s Lament 13. Ramblin' Round |
1970年代フォーク系ロックの人気者、アーロ・ガスリー。いつの間にか親父ウディ・ガスリー同様に"伝説のフォーク・シンガー" と語られるようになってしまった。そんな昔話しを見事に払いのけてしまったアルバムがつい最近、自身のレーベル「ライジング・サン」から2枚発売された。1枚目はアリスのレストラン’97と題された作品。若きアーロのデビュー作をパロディ化したアルバム。その収録曲を聞いたとたん、まだ現役歌手として高い評価を与えられる人物だ、とつくづく実感してしまった。2枚目は10年ぶりの最新録音とクレジットされたミスティック・ジャーニーだ。アーロの70年代黄金期録音と何ら遜色のない新鮮な輝きを持った作品で、独自のフォーキー・サウンドが色あせることなく素晴らしい。若い人々の間でアーロ・ファンが少しづつ増えている、というのは、この2作からだという。昔からのファンとして、こうした動きは嬉しいものだ。 |
話が横道から入ってしまった。本作品に触れよう。カントリー・フィーリングを全面に押し出しながら、大袈裟にいえばアメリカン・ミュージックの上質な部分をアーロらしいセンスで表現したカントリー・ロック傑作盤だろう。ズバリ、初期アーロの銘盤といっても決して間違いではない。アルバム表題に謳われたブルックリン・カウボーイとは、父ウディ・ガスリー最初にして最後の弟子として広く知られるランブリング・ジャック・エリオットのニックネームのことだ。つまり本作品は、60年代フォーク・ヒーロー、ランブリング・ジャックに捧げた(友好を示した)ものだ、といってもよい。 |
ランブリング・ジャックは若かりし頃、父ウディと一緒に住んでいたこともある人物として語られてきた。アーロが生まれたコニー・アイランドの家には、ランブリング・ジャックが居候していたという。父の盟友シスコ・ヒューストンやピート・シーガーなどは、病床の父を見舞うためににこの家をしばしば訪れたというのだ。つまりフォークの大御所たちが繁茂にウディ家に出入りしたというわけだ。そこで繰り広げられたのが、ウディを囲んでの楽しいフォーク・ジャム・セッションだった。こうした幼き頃の想い出が、後にアーロにとって宝物のようになっていったというのだ。ライジング・サンから1992年に発表したサン・オブ・ザ・ウィンドは幼き日の良き想い出を綴った、語ったこともあって頗るフォーク心溢れる作品だった。 |
余談だが、アーロはこのアルバムに限らずライナー・ノーツという型で、ランブリング・ジャックに尊敬の念を表わすことが多い。ジャックの珍しいカントリー・ロック風味のアルバムBull Durham & Railroad Tracks(米リプリーズRS-6387)が1967年リリースされる、と知ったアーロは、ライナー・ノーツを書きたいとレコード会社にアピールしたというのだ。実の兄のように慕うジャックへの心情を率直に吐露したアーロの心温まる解説文は、ランブリング・ジャック・ファンのみならず、アーロの熱心なファンにも注目されたものだった。話を戻そう。本盤はアーロの人気がロック・ファンに深く浸透した頃、1974年にアナログ盤として発売された作品のCD化。この年はカントリー・ロック・ブームが頂点を極めた頃で、少なからずこの辺りの微妙な影響が本作から伺がえる。とはいえこのアルバムには、ザ・バーズ、フライング・ブリトウ・ブラザースなどに代表されるカントリー・ロック・サウンドとは少し違ったテイストに満ち溢れている。 |
後先になってしまったが、アーロの簡単なバイオを記しておこう。生まれは1947年7月10日。出身はニューヨークのコニー・アイランドだ。少年時代のギター&ハーモニカの先生は、ご存知ランブリング・ジャック・エリオットとボブ・ディラン。高校時代は少しばかり恵まれたフォーク環境に反逆して保守系のカントリー、ブルーグラスの世界にどっぷりだったという。興味を抱いたのが父の従兄にあたるジャック・ガスリーという人物だった。彼は50年代西海岸カントリーの大スターとして有名。ちなみにジャック・ガスリーのヒット曲は、オクラホマ・ヒルズが有名。アーロはこの曲を1969年発売のランニング・ダウン・ザ・ロード』でカヴァーしている。またロック風味のカントリー、ベイカーズフィールド・サウンドのスターでお馴染みバック・オウエンズも大好きだったという。 |
ブルーグラスは、ご存知ビル・モンロー、スタンリー・ブラザーズ、ジョン・ヘラルドが在籍したグリーンブライア・ボーイズなどが大好きだったとか。ボブ・ディランが大好きだったブルーグラス・ミュージシャンと妙に一致していている点が気にかかる。フォーク・ブームが頂点を迎えたのは、60年代中盤だった。アーロがカレッジに通っていた頃だ。アメリカン・ミュージック史上でも空前といわれたフォーク・ブームは、いつの間にかアーロの周辺にも忍び寄ってきた。そして御多分にもれずフォークの虜になってしまった。やがてフォーク歌手としてプロになる決心をしたという。無名のアーロは、60年代フォーク・ブームの発信地、シカゴ〜ケンブリッジ・フォーク・シーンの名門コーヒー・ハウス「クラブ47」でデビューを飾った。大物フォーク歌手オスカー・ブランド(12弦ギターの名手で、ヴォーカルはピート・シーガーを彷彿させる)はアーロに注目、自身のラジオ・フォーク番組に積極的に起用、アーロ売り出しに一役買ってくれたという。次に彼を助けたのが、ハロルド・レヴェンソールという人物。フォーク・シーンの大物プロデューサーで、ザ・ウィーヴァーズ、ピート・シーガーなどを手掛けたことでも広く知られている男だ。ハロルドは早速アーロ売り出しにかかった。こうして実現したのが、1967年のニューポート・フォーク・フェスティヴァルの出演だった。自作「アリスのレストラン」をうたって、いっきにスター街道を驀進した。その後の活躍はいまさら説明することもないだろう。 |
01. Farrell O’Gara アルバム冒頭を飾ったのが、アイルランドから伝わったトラディショナル・フィドル・チューン。胸にジーンとくる。メランコリーなインストゥルメンタルで、はるか遠く彼方のアメリカ・ミュージックの故郷を忍ばせてくれる。奥深いフィドル(ヴァイオリン)と編曲は、オールド・タイム&アイリッシュのホープ、ケヴィン・バーク。 |
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02. Gypsy Davy ご存知ウディ・ガスリーのヒット作カヴァー。絶妙なフォーキー・サウンド仕上りだ。父ウディの十八番ソングを70年代風にアレンジとは恐れ入る。後半に登場するブラス・セクションとギター、アコーディオンの絡み聴き所で、小洒落に決めている。ギターはかのジェシ・エド・デイヴィス。アコーディオンは、ニック・デ・カロ。 |
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03. This Troubled Mind Of Mine 40〜50年代テキサス〜オクラホマ地方で栄えたウェスタン・スウィングに類似する作品だ。ボブ・ウィルズ&テキサス・プレイボーイズが、ウェスタン・スウィングの大物として有名。名物ヴォーカリスト、トミー・ダンカンが在籍していた。ここでのアーロのヴォーカルは、トミーを彷彿させる出来といえる。エレキ・ギター&フィドルは、60年代西海岸ベーカーズフィールド・サウンドの大物バック・オウエンス&バッカルーズのドン・リッチが担当。スティール・ギターはそのシーンでの逸材ジェリー・ライトマン。 |
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04. Week On The Rag アーロの知られざる楽器芸が堪能できるトラック。ピアノを徹底的にフィーチャーした作品。彼のオリジナル作品。ラグタイム・ピアノ全盛の1890年代から1910年代だった。一般的には、テキサス生まれのピアノ名手、スコット・ジョプリンの活躍が有名。映画「スティング」でお馴染みエンターテイナーは、スコットの代表作。 |
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05. Miss The Mississippi And You カントリーの先駆者として名高いジミー・ロジャーズ作品の素晴らしいカヴァー。ジミーは白人ブルースマンとして有名で、得意芸は"ブルー・ヨーデル"と呼ばれる物悲しいウラ声。また大甘な歌作りも定評だった。こうした点からアメリカン・ポップスの元祖としても語られことが多い。RCAヴィクターに多くの曲を遺している。本作での泣きのスライド・ギターは、ライ・クーダーだ。 |
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06. Lovesick Blues 50年代カントリー黄金時代のスーパー・スター、ハンク・ウィリアムズのMGM録音のカヴァー。といってもハンクもカヴァーを試みたもので、オリジナルはボードヴィル・ショウの流れを汲む旅芸人エメット・ミラーがオウケー・レーベル(20年代)に録音したものだ。再びドン・リッチがギター、フィドル、ドブロと大活躍。 |
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07. Uncle Jeff アーロにとって叔父にあたるジェフを題材としたオリジナル作品。オクラホマに住み、父ウディとよくセッションした人物。フィドルの名手だったという。フィドルは、クラレンス・ホワイト人脈のギブ・ギルボー。バンジョーは、ダグ・ディラード。高校時代にブルーグラスに熱中していたことが、この曲を聞くとハッキリ判る。 |
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08. Gates Of Eden 尊敬してやまないボブ・ディラン作品のナイス・カヴァー。スライド・ギターにライ・クーダー、ストリング・ベンダー・ギターにかのクラレンス・ホワイトと、今から想えば凄いセッションマンの起用といえる。ディランのオリジナルは、彼のフォーク・ロック傑作ブリンギング・イット・オール・バック・ホームに収録されている。 |
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09. Last Train アーロのオリジナル作品。広い意味でのホーボー・ソング(汽車ものフォーク)だろう。再びライ・クーダーがギターで好サポート。ファンタスティックなコーラスを配してのストレンジなルーツ・ミュージック仕上げ。恐らく父ウディやランブリング・ジャックの放浪生活をイメージしての曲作りだったのだろう。 |
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10. Cowboy Songs 本作品もアーロのオリジナル・ソング。ポップなセンス溢れる甘い、甘いヴォーカルで一成を風靡したカントリー歌手マーティ・ロビンスのサウンドを意識したトラック作り。マーティのコロンビア録音を助っ人したカントリー・ギターの名手グラディ・マーティンが起用されているのが嬉しい。 |
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11. Sailor’s Bonnett 「1」とよく似たアプローチのインストゥルメンタル。フィドルはケヴィン・パーク、バンジョーは、何とアーロ自身が担当だ。ボトルネック・ギターは、ライ・クーダー。神秘的なトラディショナルの世界へと誘ってくれる。 |
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12. Cooper’s Lament ゴスペルっぽいコーラスを伴っての力強いヴォーカルが素晴らしい。アーロの書いたものだ。エレキ・ギターはジェシ・エド・デイヴィスとライ・クーダーという巨人が担当。ベースは、ジャズ・シーンでもお馴染みチャック・レイニー。 |
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13. Ramblin'‘Round 父ウディがレッドベリーのおやすみアイリーンのメロディを借用して書いたホーボー仲間のためのララバイ(子守唄)。アルバム最後を飾るに相応しい心優しいワルツ。兄貴格ランブリング・ジャック・エリオットのカヴァー録音(プレスティッジ盤収録)も要チェックだろう。 |
(1997年) |
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