NEW LOST RAMBLERS


 ■ NEW LOST RAMBLERS

  2003年11月11日(月)


Muleskinner / A Potpourri Of Bluegrass Jam(MSIF2169)

Muleskinner 曲目
01. ミュールスキナー・ブルース / Muleskinner Blues
02. ブルー・アンド・ロンサム / Blue And Lonesome
03. フットプリンツ・イン・ザ・スノウ / Footprints In The Snow
04. ダーク・ハロー / Dark Hollow
05. ホワトハウス・ブルース / Whitehouse Blues
06. オーパス57・イン・Gマイナー / Opus 57 In G Minor
07. ランウェイズ・オブ・ザ・ムーン / Runways Of The Moon
08. ロアノーク / Roanoke
09. レイン・アンド・スノウ / Rain And Snow
10. ソルジャーズ・ジョイ / Soldier's Joy
11. ブルー・ミュール / Blue Mule

 ビル・モンローがオリジネーターの〈ブルーグラス〉は、ケンタッキー生れのルーラルなアコースティック音楽だ。1945年に誕生して以来、多くのファンは南部カントリー&フォーク狂に限られていた。だが、60年代になると、ファン層に変化が現れる。フォーク・リヴァイヴァルの中で、ブルーグラスは都市部の若者にも人気を呼んだものだ。70年代に入ると、ブルーグラスはついにロック・ファンの心を捉え始めた。そんなシーンの推進役を務めたのが、ミュールスキナー盤だった。
 本作品は、1974年ワーナー・ブラザースより発売されたアナログ盤の完全CD化である。ジャケット・デザインも、オリジナル通りの再現だ。こうした拘りは、いちファンとしても嬉しいかぎりである。まれに見る新感覚のブルーグラス名盤の誕生劇に少し触れてみよう。このアルバムは、1973年2月13日にTVでオン・エアーされるべきブルーグラス・ショーでのハプニングから生まれた、と言ってよいだろう。
 ハリウッドのローカルTV局KCETは、ビル・モンローのショーを計画していた。その内容は二部構成。オープニング・アクトは、伝統的なブルーグラスを楽しんでもらう、という主旨でビル・モンロー&ヒズ・ブルーグラス・ボーイズのギグ。これがショーの一部で、二部ではビル・モンローと若手ブルーグラッサ―によるスリリングなジャム・セッション大会を考えていた。ところが思わぬハプニングが生じてしまう。ツアー・バスがTV局に向かう途中に故障してしまい、ビル・モンロー・バンドは残念にもTV出演不可能となる。そこでプロデューサーは、ビル・モンローのジャムを楽しみにスタジオに待機していたピーター・ローワン(ヴォーカル&ギター)、デヴィッド・グリスマン(マンドリン)、ビル・キース(バンジョー)、クラレンス・ホワイト(ギター)、リチャード・グリーン(フィドル)などによる即製ブルーグラス・バンドによる番組で、このアクシデントを乗り切ることにした。若手によるショーは、エキサイティングなニュー・グラスぶりを展開する。稀に見るロック・フィールを持つブルーグラスが、大評判となってしまう。
 しっかり者のリチャード・グリーンは、ワーナーのプロデューサー、ジョウ・ボイドにTVギグと同じメンバーでのアルバム作りを提案する。こうして実現したのが、本作品だった。ロック・ファンにもアピールしたこのミュールスキナー盤は、70年代の雑誌等で先に触れた誕生劇が話題となり、いつしかTVギグの録音、ヴィデオを探すファンが急増した。それに応えたのが、西海岸に拠をかまえるSierra Recordsだった。幻のギグ、と騒がれていたTV版スーパー・セッションで、本アルバムのルーツとも言える映像と、CDが、ついに1991年に陽の目を見た。ヴィデオは輸入品で買うことが出来る。CDは幸い本作の発売元MSIの温かい理解で、邦盤として1992年リリースされている。本作と深いつながりを持つ「ミュールスキナー/ライヴ」(MSI−11059)は、要チェックだろう。
 1974年にワーナーから発売され、あの時代のカントリーとロック・ファン両者に珍しく支持された本作品は、ふたつの新しいブルーグラス・サウンドによる所が多かった。いずれもニュー・サウンドの主役は、ギターの名手のクラレンス・ホワイトだった、といっても決して過言ではないだろう。クラレンスはご存知のとおりアコースティック・ギターの革新者で、ケンタッキー・カーネルズというバンドの花形だった人物。彼のギター奏法は、色気のあるホット・リックと、絶妙なシンコペーションが特徴だったといえる。名手ドック・ワトソンを越えた独特のクラレンス・ピッキングは、ブルーグラス・シーンでのリード・ギター奏法を変えてしまった。こうしたクラレンスのアコースティック・ギターの極みが充分に堪能出来るのが、本作でのアコースティック・ギター・セットだ。もちろんバンジョーの名手ビル・キース、マンドリンのデヴィッド・グリスマン、ヴォーカルとギターのピーター・ローワン、フィドルのリチャード・グリーンの手助けで、そのサウンドはニュー・ブルーグラスの色濃いものであったことは言うまでもないことだろう。
 本作でのもうひとつの聴き所は、エレクトリック・ギターに持ち替えてのクラレンス・ホワイトの大活躍にある。フォーク・ロックの王者として君臨したザ・バーズの後期は、クラレンス・ホワイトの花形舞台だった。彼のフェンダー・テレキャスターは〈ストリング・ベンダー〉と呼ばれ、朋友ジーン・パーソンズとの共同開発から生まれたものだった。このギターの特徴は、カントリーでの際立った存在感を放ったペダル・スティール・ギターと同じようなサウンドを容易に出せる点にある。つまりクラレンスは、バーズや本作品でのカントリーっぽいホット・リック表出に専念している。本アルバムがかつてカントリー・ロックの名盤、と捉えられた理由は、ストリング・ベンダー付きテレキャスターで縦横無尽に弾きまくったクラレンス・ホワイト参加に他ならない。
 クラレンスばかりが、ロック・フィールを体験したわけではなかった。このセッション参加のリチャード、デヴィッド、ピーター、ビル等は、ピュアなブルーグラス・バンドを体験したばかりか、フォーク・ロック、カントリー・ロックで大活躍したこともあった。それぞれのロック・バンド足跡を明記しておこう。リチャード・グリーン(シー・トレイン)ピーター・ローワン(シー・トレイン、アース・オペラ)デヴィッド・グリスマン(アース・オペラ)ビル・キース(アース・オペラ、ブルー・ヴェルべット・バンド)

01. ミュールスキナー・ブルース
 ホワイト・ブルースの先駆者、ジミー・ロジャース作品のカヴァー。ビル・モンローもこの作品のカヴァーで、グランド・オール・オープリーのスターの地位を築いている。クラレンスのストリング・ベンダーが、イントロから炸裂するゴキゲンなカントリー・ロックだ。もうひとつの聴き所は、リチャード・グリーンのエキサイティングなフィドル・プレイだ。正にアルバムの冒頭を飾るに相応しい名唱名演といえそうである。
02. ブルー・アンド・ロンサム
 御存知ビル・モンロー・ソングのカヴァー。怪しい白人ブルース・フィール"ハイ・ロンサム"が味わえるビルのデッカ盤代表といえる「High, Lonesome Sound of Bill Monroe」(デッカDL-74780)に収録されている。オリジナル録音は、1950年2月3日。ビル盤のクレジットは、「I'm Blue, I'm Lonesome」だった。ひかえめなクラレンスのテレキャスターが印象的なブルーグラス・バラードで、バーズを退団して再結成されたホワイト・ブラザースの重要なレパートリーとしても有名だ。
03. フットプリンツ・イン・ザ・スノウ
 こちらも御馴染みのビル・モンロー・ソング。表情豊かなクラレンス・ホワイトのアコースティック・ギターと、ピーター・ローワンビル・モンローを充分に意識したハイ・ロンサム唱法が聴き所だろう。
04. ダーク・ハロー
 ブルーグラスのスタンダードとなっている名曲の登場だ。クラレンスのハーモニー・ヴォーカルが"ブルーグラスは南部色の濃い音楽だ"と主張しているかのようだ。本来のこの曲は、カントリー・シーンで歌われたもので、ジミー・スキナーという歌手がヒットさせたものだった。ビル・キースのバンジョーが、少しずつ本アルバムでの重要なファクターぶりを示してくれる。やはりバンジョー抜きのブルーグラスは、魅力半減といった所だろう。
05. ホワイトハウス・ブルース
 またまたビル・モンロー・ソングの登場。とはいえ、ビルはこの曲を20年代に大ヒットさせたチャーリー・プール&ノース・キャロライナ・ランブラーズ録音(1926年9月26日)のヴァージョンをカヴァーしたものだった。チャーリーやビルの録音は、豪快無比のアップ・テンポなのだが、ここでのアプローチはミディアム・テンポのトラッド・フォーク風味を醸し出しているようだ。
06. オーパス57・イン・Gマイナー
 オリジナル性を全面に押し出したインストゥルメンタル・ナンバー。ここでの主役は、クロマティック・バンジョー名手のビル・キースと、後に〈ドーグ〉というホット・アコースティック・ミュージックを確立するデヴィッド・グリスマンの軽快なフラット・マンドリン。ニュー・ブルーグラス・インストゥルメンタルとしての価値は、極めて高い。
07. ランウェイズ・オブ・ザ・ムーン
 いかにもピーター・ローワン、といったヴォーカルが冴え渡る作品。シー・トレイン時代をいやが上にも彷彿させる出来だ。フライング・ブリトー・ブラザースザ・バーズなどのカントリー・ロックを好むファンにはもってこいの録音だろう。リチャードのエレクトリック・フィドル、クラレンスのテレキャスター、ビルのスティール・ギターなどが、ほど良い効果を盛り上げているのは、言うまでもないことだろう。
08. ロアノーク
 御大ビル・モンローの大当りインストゥルメンタルのカヴァー。オリジナル録音は、1954年12月31日。ビルのデッカ・アルバムの「My All Time Country Favorites」(DL-4327)で味わうことが出来る。その時のバンジョー奏者は、ボビィ・ヒックスだった。デヴィッドのマンドリン・プレイ、ビルのバンジョー・ワークは、溌刺でこちらも聴き所といえる。
09. レイン・アンド・スノウ
 今度はピーター・ローワンのハイ・ロンサム・ヴォーカルに注目だ。マイナー調のトラッド・フォークを歌うもので、いかにもピーターらしさが漂う作品。バック・アップするリチャードのフィドル、デヴィッドのマンドリンは、心得たものでピーターの引き立て役に徹しているのが印象的である。
10. ソルジャーズ・ジョイ
 オールド・タイムやブルーグラス・シーンでの定番インストゥルメンタル。クラレンス・ホワイトの速弾きアコースティック・ギターが、ここ一番とハリキッている。ビルのバンジョーにも、注目すべきだろう。ジョン・ゲアリンのドラムスも、違和感のない助っ人ぶりを発揮している。
11. ブルー・ミュール
 ピーター・ローワンの作品。アルバム最後を飾るに相応しいニュー・グラス風味の素晴らしい録音といえる。ここでのセッションには、ブルーグラス・ミュージックの持つ魅力的なエッセンスを凝縮したものだ。4分27秒余りの音に、興奮しない者は恐らくいないのではないかと思う。70年代前半に大きく燃えたニュー・ブルーグラス・スタイルの頂点を極めた作品として、今でも語られるものだ。
(1994年1月)



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