“おれらっちもワイワイ勉強、勉強”…
こんな応用の仕方もある
「ダンディ2・華麗な冒険」
●プロローグ
画面がなくてもバツグン……
テレビってのは、画面が映らなければお話にならない。CM風にいえば「画面のないテレビなんて……」。イライラしないだけラジオの方が健康的だ。
ところが、である。“画面がなくても楽しめる”という世にも不思議な番組がある。「ダンディ2・華麗な冒険」がそれだ。いわゆる会話だけでも存分に笑っていただけるというシロモノである。
まずはその軽妙なる会話から。
ダニー 「ホテルで待てどくらせどこぬか雨じゃないの」
キャリー「雨にあたったらカゼ引くもン」
ダニー 「一緒に引きたい人力車」
キャリー「犯人の住所はまだつかめないのヨ」
ダニー 「そんなこと調べてどうなるの? 鳴門の渦巻きだ。事件とは関係ないない瀬戸内海!」
(二月八日「八百長レースに殺しを賭けろ!」から)
●基本編
弱点を突くのはルール違反
会話の微妙なニュアンスを誌上でお伝えできないのが残念だが、思わずニコッとするのは請け合いだ。
舞台はヨーロッパ。人力車も鳴門のうず巻きもないもんだ。ところがどっこい、トニー・カーチス演じるところの“アメリカの成金”ダニーが話せば、なんとなく真実らしく聞こえるから不思議――。
「言葉をバカにしたり、いい加減にしてもダメ。また意識しすぎてもダメ。いくらユーモア大切だといっても、崩しすぎるのはイヤだね。ふだんが大切でしょうねつねに明るく朗らかに」。
こういうのはダニーの声の主・広川太一郎さん。「声だけでなく、スタイルもダンディですョー」と自称する御仁である。
この番組を「テレビ版・ディスクジョッキー」だと自認するNETテレビの原地隆ディレクターは、
「台本はあるにはあるんですが、実際にはアドリブの連続でしてネ。お年寄りから見れば、“日本語の破壊だ”と思われるかも知れませんが……」。
おかげでスタジオはいつも爆笑のウズ。自然、スタジオの雰囲気づくりがポイントになる。広川さんは、どんなにイヤなことがあっても決して表情に現さない。彼の言葉を借りれば、「ホントウにはしゃぐの。めっきりはしゃぐネ」。
いくらユーモアやシャレのセンスにあふれていても、お通夜のような雰囲気ではシャレのひとつも飛び出さないわけ。
ダニー、のたまわく、
「シャレというのは、相手の言った言葉の尻尾をつかまえて返してやると、相手も喜ぶものです」。
教訓1 ユーモアといっても、人をあしざまにののしったり、人の欠点を突いたりして笑うのはダンディとしてはルール違反になる。
●実習編
ユーモアは「連想ゲーム」から
教材は「うれしいんだョ」という表現。まず「いま、有頂天だ」といっても通じる。しかし、これではおもしろくもおかしくもない。
で、ちょっとひねれば「頂点とは英語でいうトップ」だと気づく。ここで、もうひとひねり。英語の辞書をペラペラめくれば、「トップ=頂上」という意味を発見するだろう。
さあ、これからがポイント。いつまでも「頂上」にこだわっていては、そこから先へは一歩も進まない。「ユーモアとシャレの精神のかたまり」と自認する広川さんは、思いつくまで一睡もしない。そして、やがて「頂上」から「山」を連想した。ハイ、でき上がり――、
「うれしさ盛大マウンテン!!」
これが“広川ぶし”の秘訣である。意味は通じないかも知れないが、「それらしきニュアンスは通じるでしょう」と、わがダニーは誇らしげである。
教訓2 固定観念にとらわれず、自由な発想法を訓練する必要あり。ユーモアは連想ゲームから生まれる!
これと関連するが、人の使った言葉やCMの流行語を使ってもちっともおもしろくない。かつて「カッコいい」という流行語があった。広川さんはここで反骨精神を発揮、「カタチいい」で貫いた。
ダニー、のたまわく――
「自分なりにアレンジして使うこと、これがセンスある会話の条件です」。
教訓3 ダンディたるには“反骨精神”を持て。
●応用編
恥を恐れずまず実行
ダニーのモーレツなファンである中学三年生の田中恵子さん(東京・杉並)の作品――
品行四辺形だったオレラッチたちも、チベット・ダニーさまに影響されて、朝のあいさつYAING、YAING(ワイワイ)でかたずけちゃう。ダニーの「ヒゲボスのたりのたりかな」にたたられたかどうか、わがクラスメートは授業中、ガバッとめざめて、ねむけがさめちゃったですって……。
ちょっと解説が必要だろう。「チベット」というのは「ちょっぴり」の意味。「ヒゲボスのたり――」は、悪党のヒゲツラのボスの顔を俳句の「春の海、ひねもすのたりのたりかな」にひっかけたアドリブ。
中三だけあって、さすがに柔軟な頭の持ち主ではある。おかげで彼女のクラスはいつも爆笑のウズだそうである。
教訓4 恥を恐れず、まず実行。家庭も明るく、頭の体操にもなる。
●エピローグ
ユーモアにも「T・P・O」
わがダニーの家庭も健康で明るい。同じタレントである奈美子夫人を相手に、ユーモアとシャレの競演といった図。日大の落語研究会出身の旦那が相手なだけに、近ごろはメキメキと腕をあげ、わがダニーをして、「女房はユーモアのバロメーター」といわせる。
ただし、「ユーモアやしゃれは分かる相手を選ばなければ、ね」とは、“殿さま”ことブレッド役の佐々木功さん。広川さんも異口同音である。この意味ではわがダニーは、奈美子夫人という良きツレアイを持っていらっしゃる。
教訓5 ユーモアやシャレにも“T・P・O”がある。
教訓6 ユーモアやシャレは、ふだんから好んでならさないと出て来ない。
ちなみにわがダニーこと広川太一郎さんは一見、内田良平風。色黒で苦み走った(?)いい男である。
わがダニーは、別れ際、
「さいなら。挨拶、月並み、並木路ってわけかい。では、おれらっちも並木路」と、いったかどうか。
さあ、あなたも今日から“ダンディな会話”でお楽しみを――。
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